夏の雲雀は かろやかに

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


       




 ここまでの流れはあくまでも、女子高生三人組の視線や立場から追っていて拾えた鍵を並べたもの。よって、何でだろという不審な点、全体像へ上手く嵌まらないピースも幾つかあったわけだが。警察が念入りに捜索し終えている跡地を、何でまた再びご丁寧に探ってた彼らだったのかといえば。押収されたと公表されてないブツをこそ目当てにしていたからというところは大当たりで、何と、あのインペリアルエッグをと取引していた最中だった故買屋組織がこたびの黒幕であり。押収されたと公表されていないのだから、草の根を分けても捜し出せと指示された、場合によっては押し込み強盗もやってしまうぞという“実行班”クラスの面々が送り込まれていたのだそうで。そう、はっきり言って実戦派ばかり、唯一の苦手は取引や説得といった頭の切り替え…という、腕力体力に自信のない身で直接対峙するには、ある意味、最も手ごわい顔触れだったりしたらしい。

 「あらまあ。」
 「それは、それは。」
 「……………。」
 「久蔵殿、それ兵庫せんせえへも言える?」
 「〜〜〜〜〜。///////」
(おいおい)

 サナエ叔母様が修行したスタジオこそが、敵から まずはと目をつけられ“足場”となった標的で。学園への出入りに必要な肩書目当て、そこの関係者だったことから籠絡されたのが、撮影を指揮していたカメラマン氏で。それにしたって…不合法な飲み屋に連れ込み、無体な借財を山ほど作らせ、返済の替わりにと持ち出された条件が、女学園侵入への手引き役と来て。

 「そっか。コネっていう信頼関係を速攻で手に入れたかったから。」
 「ええ。当日一日だけ、効果があればいいって格好だったんでしょうよ。」

 なので、力技やゴリ押しな部分も多々あったものの、

 「人の弱みに付け込むのは得意だったから。」
 「うん。」
 「こんな杜撰な手でも、通行証だけは手に入ったってところか。」

 発覚後に山ほどの手掛かりを残すような、杜撰もいいところな運びようだったが、なに、すべて私が“単独で”やりましたと、警察へ自首する駒にも困っちゃあいなかろうから、それでも構わなかったに違いなく。

 「ただまあ、サナエさんが関わったのが、今回は奴らへの不運だったというか。」

 そう。叔母様との連絡が取れない、これってもしかして…と、三人娘らが見て見ぬ振りを選ばずに行動に打って出た切っ掛け。選りにも選って、彼女らの知己であるサナエさんが拉致されたらしいという展開に至ったのは、実を言えば全くの出合い頭というやつで。恩師やスタジオと連絡が取れないことを不審に感じ、何があったのかなと様子を見に行って拉致された…というのが正しい順番。他にも不審に思って訪ねる人物があるやも知れぬと、スタジオの人間たちを拘束状態で放置したまま、そこから早々と撤退し、学園捜索班と落ち合う予定になっていたファミレスへ移動していた彼らだった……というのが、敵さん側の時間の流れ、出来事の流れであったのだとか。よって、





       ◇◇


 「………何だと?」

 そちらからの連絡が入ったか、唯一 撮影作業には加わらずに携帯ばかりいじってた鼻ピアスが。本人も驚いたからか、少々大きめ、何へかへ意外そうな感慨を込めた声を放ったのは、丁度 中庭の一隅、第○○期卒業生のお姉様たちが記念に植樹した藤が見事に育った藤棚を背景にという、緑もたわわなシーンを撮ろうとしていた矢先のこと。彼らにして見りゃ、お目当ての品物が見つかればそそくさと撤退に運べたものが、なかなか見つからないまま、とうとう本日七枚目の撮影へ突入していたワケで。事情を知らなきゃあ、こちらさんたちもまた、ああまだ あと5場面もあるのかと、ただただ辟易していただけだっただろうが、

  ―― あやつは“連絡係”だったんだから、
     あれは何か異常事態が発生したからこその反応、と

 その辺りの反射や判断も素早いというもの。つか、

 「勘兵衛様、連絡が遅い。」
 「目先のことしか見えていないな、島田。」
 「こっちも似たような危機(監禁状態)だとしても、
  シチさんがそれを伝えるはずがないと、何で学習しませんかね、あのお人は。」
 「そこはあのその…。//////」
 「気丈なところや腕っ節を、前世同様信頼されているからだという惚気なら、
  あとでご本人へ叩きつけておやんなさい。」

 今の世の平安とか、シチさんが副官じゃあなくて女子高生だってことへすっかり馴染んでおいでの勘兵衛殿でしょうから、そんな話を聞けばきっと青くなるに違いないと。そういう含みが判ったのは、恐らく久蔵だけだったろうが。そして、そんなやり取りが出来たほど、こちらさんもまた“いつでも駆け出せるぞ”状態、トルクアップしていたのは言うに及ばずで、

 「………ちっ。」

 どこから話が漏れたやら、警察が…と言い残して切れた連絡に、向こうは取っ捕まったらしいと踏んだ、実は真のリーダーだったらしき鼻ピアス。血相変えたまま電話を切ると、周囲を見回し、少なからず事情を察してだろう、注目してくる仲間内の大向こう、純白のドレスをまとったか弱きご令嬢らに眸を留めると、

 「どけっ!」
 「きゃあっ。」

 鼻っ柱は強くとも、やはりか弱いだろう女子大生を突き飛ばし、真っ直ぐ直進してくる彼であり、

 「そいつら捕まえとけっ。」

 少女らを顎で示し、自分よりも近間にいた連中へそんな指示を出したのは。こうなったら此処へも警察が踏み込んで来かねないと思ったからか。何であいつら、そんなややこしい人質取りやがったんだ。何でもいいから追い返してから、スタジオのじいさんたち縛り上げ、それで時間稼いで逃げ出すだけで済んだろうにと。逮捕に至ったネタをばらまくような行動をわざわざ選んだ、仲間内の手際の悪さに舌打ちしつつ、だが、自分だって似たようなことをしていると、どうして気がつかないもんだろか。姿やら声やら所業やら、自分らを知ってしまった者を、そこいらに無造作に解放することへ純粋に危機感を覚えるからなら、まだまだ小心な小物であり。

 「…っ。」

 ハッとしたのはカメラマンさんも同じ。彼としては ただ脅されて同行していたようなものだが、シスターたちに不審を抱かせないようにと引っ張り出した、カモフラージュの少女らが、こんな連中からぞんざいに扱われないかを彼なりに見守っていたらしく、

 「…逃げろっ。」

 進路へ立ち塞がりながら、少女らへと声を張る。おやと、意外そうに目を見張った少女らは、だが。打ち合わせてでもいたかのように、ほぼ同時に“うん”と頷き合うと、言われた通りにくるりと背を向け、緑したたり蝉の声もにぎやかな、中庭の3方向へと分かれ、それは素直に駆け出しており。

 「待てっ。」

 何がなんだかと一瞬棒立ちになってた男衆が、だが。ドレスの裾を踏まないようにと、さすがに指先で摘まむ程度では追っつかないからと、腿辺りの生地を手で握って掴み上げてというたくし上げようとなり、それは軽やかに逃げを打つ少女らの姿に…一体どう刺激されたものなやら。我に返ると待て待てと、追いかけ始める勇ましさだったので、

 「…あ。」

 しまった逆効果だったかと、カメラマン氏は一気に後悔したらしかったが、

 「あんの馬鹿どもが。」

 これを聞きつけたシスターらが集まりかねないほど大騒ぎしてどうするかと。そのまま通報に走られかねない惨状へ、鼻ピの男はもっとげんなりしたらしかったし、

 「きゃあぁあ。」
 「いやぁん。」

 おやめあそばせ〜と口走りつつも、手に握っていたドレスのスカート。そのまま、しまいには両手で掴み上げた美少女たちが。逃げた方向はばらばらながら、だっていうのに…まるで申し合わせたかのようなタイミングにて、その手をぐいと左右へ引いて見せ。

 「…………え?」
 「わ…っ。」

 前以て縫い目を細工しといたらしい、それでも結構なご乱行。びびびびびぃ〜〜〜〜っとそれは鮮やかに、それぞれがまとっていたドレスのスカート部分を思い切り縦へと裂いてしまった彼女らで。途中からは開いたそこから膝を蹴り出しての押さえにし、一気に裾までを引き裂くと、ひるがえって邪魔だということも先刻承知か、裳裾を持ち上げ、腰の辺りへ結び留めておく周到さよ。日頃からここまで大胆なお転婆に慣れている…わけじゃあ勿論なくて。ただまあ、これまた前世からの持ち込みのようなもの。今から始まる“乱闘”には邪魔にしかならぬと、ちゃんと“判って”いたものだから。その手がその身が自然とこなしていた下準備であり、

 『そういや、久蔵殿はああいう長い裾の衣装でも器用に捌けたのでは?』
 『〜〜〜〜。』
 『ああ、やっぱりスリットはあった方が。』

 そういう問題なのね。
(苦笑) それはともかく、いきなり自分らでドレスを引き裂くという無体をやらかしたお嬢様がた。何だなんだと、掴み掛かりに向かっていたはずの面々が、再び不意を突かれてだろうその足を停めたのへ、

 「哈っ。」
 「てぇあっ!」
 「御免っ!」

 くるりとその身をひるがえし、こちらも真っ向から応じるぞと言わんばかり、向かい合って見せたから頼もしい。今生でも剣道のたしなみのある七郎次は、目をつけていた藤棚の支柱を1本、竹なのでと見事な かかと落としの一撃でへし折るとそれを得物とし。切れよく左右に振るっては、結構体格のいい連中を、それでも的確に…顎だのみぞおちだのという急所をどんと突くことで片っ端から薙ぎ倒している勇ましさ。切っ先を掻いくぐって手を伸ばして来られても一切怯まず、素早く左右や上下へと身を躱す反射は、だが、さして逼迫はしていない。むしろ余裕さえあってのこと、まるで軽やかな舞いで相手を振り回し、からかってでもいるかのよう。しかもしかも、得物に微妙に長さがあるのを生かしてのこと、時には中ほどを持ってのぐるんと回し、

 「…えっ、うわっ!!」
 「な、なんでっ。」

 見ちゃあいないが後方にも油断はないぞと、そちらに立つ手合いも叩き伏せる卒のなさをご披露しつつ、勇ましい奮戦続けるその向こう。現役で武道に親しむ彼女と違い、かつては天穹を自在に舞った、またの名を“死胡蝶”殿、だがだが現世ではバレエを嗜む久蔵は。そんな七郎次からこそりと、背中合わせになったままにて渡されていた、そちらは朝顔か葡萄用の支柱だろう細いがステンレス製の長棒を。振り抜くそのたび、ぶんという風を撒く音 鋭くも添わせては、強烈な一閃を襲い来る相手へ次々にお見舞いしており。

 「………。」

 かつてに比すれば膂力は劣っても、勘が良いところは健在か。捕まえようと追う手からは逃げつつも、逆に、それも大胆なほど こちらから駆け寄りもして相手の手勢へ襲い掛かる。ひゅっと風を切ったそのまま、その動線が消えるほどの閃撃は、押し寄せた連中のこめかみや顎辺りを次々叩くという悪魔のような正確さと容赦の無さにて、一打として外されず。

 「ぎゃっ!」

 何しろ現役ばりばりの、同じ年代のグループでの演目では必ず主役へと抜擢される、希代のプリマドンナなものだから。重力なぞ関係ないかのようにその身を自在に操れるすべにも長けていて、それという予備知識がなければ得体の知れなさと映るは必至。たとえば、ひょいとその身を沈めた次の瞬間には、眸を剥くほどもの高さまでを跳ね上がって…いるように見せるのも、視野の左右の幅があまりないよになる近間で、姿を見失うほどの素早さで左右へ移動することで、本当に神出鬼没をこなしているかのように錯覚させるのもお手のもの。品のある白いローヴにも映えていた、綿毛のような金の髪、動作に合わせてのふわふかと それは軽やかに躍らせながら。なのに凍ったような表情のまま、するするとにじり寄る迫力も相俟って、

 「な、なんなんだよ、こいつ。」
 「ひぃぃっっ!」

 本来からして荒ごと専門だろう相手から、戦意をも あっさりともぎ取っているほどの恐ろしさは きっと。前の時代に体感した…数々の真剣真摯な命のやり取りや、それらから得た一種の狂気が育んだのだろ。死をも恐れぬ、いやさ 死と生との境目にしか生きている実感を拾えなかった、元はそういう哀しい剣豪だった久蔵の。白いお顔に張りついてしまい、とうとう剥がすこと叶わなかった、

  ―― 死の香をはらんだ、無情の素顔

 単なる演技じゃあなくの、むしろ油断をすると浮かび上がってくる自然なお顔。なので、海千山千なはずのお歴々が、揃いもそろって おっかないことこの上ないと尻込みするのも まましょうがない。そんな彼女とは正反対、

 「や〜んっ、怖い〜っ。」

 そういえば、機械には詳しいが戦闘スキルは最も少ないはずの平八だったが、そちらさんだって元は 侍
(もののふ)。戦さのさなかへ躍り込んで太刀も振ったし、殺意と相対した実績は重々お持ち。…だったので、

 『いやほら、アタシは生まれがアメリカだから。』

 ついつい、基本的な護身術や撃退術を身につけてるのがあれこれ飛び出してのこと。恐慌から体が固まってしまわないようにとの心掛けから、大仰な声だって出るものの、叫びと裏腹、その手はちゃんと働いており、

 「だ〜〜っ、何しやがるっ!」
 「痛だだだだっっ!」

 七郎次が、折っても問題ない支柱はどれかや、葡萄の樹に使う予備の支柱の有り処をようよう知っていたように。平八だってこの中庭には詳しいから……遅刻して来たときに使う縄ばしごを何処にこっそり隠しているかとか、それをフェンスの外から引っ張り出すのに使うため、鉄柵が1本だけ、実はやすやす引っこ抜けるんだよんという細工とか。縄ばしごはね、隠している間に風化してしまわないよう、自転車のチェーンっていう頑丈な素材で作ってあるの凄いでしょうということとか。

 『…それは地の利とか“知っている”こととは言わぬ。』
 『そうよね、全部ヘイさんが仕掛けといたものじゃない。』

 遅刻したときのお助けグッズなんか、いつの間に仕込んだの? そういや、中庭って八百萬屋に近い方角だったわねぇと。後日談を語りつつ、やっぱり話が逸れてった少女たちだったのはともかくとして。あちこちに埋めてあったのを発掘しつつ、どういう仕様か、手元のワイヤーを1本、白い肘を背後まで引くほど思い切り引き抜くことでバラバラにしたチェーンのパーツを、豆まきよろしく“えいや、そーれ”と全力でぶつけてくるわ、

 「何でそんなもんがっ。」
 「わあ、待て待て待てっ、降参だ降参っ。」

 みかん色の髪をさらさらと揺らし、いやん怖いと口では言いつつ。腰も入ったそりゃあいい構えで頭上へ高々持ち上げた鉄パイプを、両手持ちのまま何とも無造作に振り下ろそうという、何ともおっかない美少女からの反撃には。得体が知れないという恐怖も乗っかってか、これは敵わんと思ったらしく。

 「何事ですかっ!」
 「草野さん、三木さんっ! 林田さんまで何ですか、その恰好はっ。」

 あまりの賑やかさに駆けつけたシスターたちへ、助けてくださいとすがる者まで出た始末で。遠くから鳴り響くパトカーのサイレンと共に、とんだ騒動となった真夏の白昼夢は、どんなにシスターたちが隠蔽にかかっても無駄だったほどあっさりと、世間様へも広く知れ渡ってしまったとか。

 「……悪い評判にならなきゃいいけどもね。」
 「あたしらはともかく、学園の評判が落ちるのは困りものだよねぇ。」
 「…、…、…。」

 だったら頼むから、こういう場合はただただ怖がっての大人しくしていてほしいの、それだけよと。心の中で切実に叫んだ大人が一体何人いたことか……。






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  *もちょっと続きますよ、すいません。(苦笑)


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